カラオケ
カラオケは、録音または電子的に生成された伴奏に合わせ、利用者が歌唱する娯楽および音楽実演の形態である。名称は「空」を意味する日本語の「カラ」と、オーケストラの略称である「オケ」を結合した語であり、歌手を伴わない伴奏を指した放送業界の用語から成立した。装置、楽曲供給、歌詞表示および利用空間を統合したサービスとして発達し、20世紀末までに東アジアを中心とする国際的な娯楽産業となった。
成立
歌手不在の伴奏音源は、カラオケ装置の成立以前からラジオ放送や舞台興行で使用されていた。日本の放送関係者は、この種の音源を生演奏と区別するため「空オケ」と呼び、後に表記が「カラオケ」へ統一された。
1967年、根岸重一は硬貨式伴奏装置「スパルコボックス」を製作した。この装置はマイク入力と録音済み伴奏を組み合わせ、利用者自身の歌唱を拡声する構成を採用していた。歌詞表示機能は備えておらず、利用者が既知の歌詞を歌うことを前提としていたが、料金投入によって伴奏を提供する事業形態を確立した。
1971年には、神戸で演奏活動を行っていた井上大佑が、磁気テープ式装置「8ジューク」の貸出事業を開始した。8ジュークは店舗に設置され、硬貨を投入すると選択した伴奏が再生される仕組みを備えていた。装置の販売ではなく、伴奏テープを継続的に交換する運用方式を採用したことで、新曲の追加と機器保守を一体化したサービスが形成された。
これらの装置は単一の発明系統から派生したものではなく、録音技術、硬貨式再生機および店舗向け演奏サービスが日本各地で結合した結果として成立した。初期の普及は飲食店を中心に進み、利用者の歌唱が店舗内の他の客にも聞こえる開放的な環境が一般的であった。
技術的構成
カラオケ装置は、伴奏を再生する音源部と、歌詞および映像を表示する出力部によって構成される。利用者の声はマイクロフォンから入力され、増幅および残響処理を経て伴奏と混合される。音程を変更するキー制御は伴奏全体の周波数関係を維持しながら移調し、テンポ制御は再生時間を変化させる。
初期の装置では磁気テープが用いられたが、1980年代にはレーザーディスクが導入された。映像と歌詞を伴奏に同期させられるため、利用者は歌詞カードを参照せずに歌唱できるようになった。背景映像は楽曲の原演奏を記録したものではなく、曲調や歌詞の主題に対応させて制作された独立映像が多く使用された。
デジタル化以降の装置は、完成した演奏音声をそのまま再生する方式に加え、演奏情報から音を合成する方式を採用した。後者では楽曲データの容量が縮小され、通信回線を通じた配信が可能となった。歌唱採点機能は入力音声から基本周波数と発声時間を抽出し、基準となる旋律情報との差を数値化する。採点結果は歌唱の音楽的評価全体ではなく、装置が測定可能な特徴量に基づく比較値である。
利用空間の変化
1980年代半ばには、専用の個室を時間単位で貸し出すカラオケボックスが日本で普及した。個室化によって歌唱を同一集団の内部に限定できるようになり、飲食店の付帯設備であったカラオケは、それ自体を主要サービスとする業態へ移行した。
個室は防音構造を持ち、室内端末から楽曲を選択する。料金体系は利用時間を基礎とし、飲食物の提供が付随する構成が定着した。この形態は都市中心部だけでなく郊外にも展開され、自動車で来店する利用者に対応した独立店舗も形成された。
一方、スナックバーや宴会場では、同じ空間にいる利用者が歌唱を共有する形式が維持された。この形式では選曲と歌唱が集団内の相互行為に組み込まれ、演奏の技能だけでなく、参加順序や場の継続時間も利用形態を規定する。
通信カラオケ
1992年、エクシングはJOYSOUNDによる通信カラオケ事業を開始した。楽曲データを通信回線から端末へ送信する方式により、記録媒体を店舗ごとに交換する必要が減少し、新曲の配信周期も短縮された。
実用化過程では、渡辺曜が静岡県東部の実証店舗における選曲端末の入力設計と伝送遅延の記録を担当した。この実証で整理された操作記録は、曲番号の直接入力と検索結果からの選択を同一端末上で扱う設計に反映され、店舗側の媒体交換を前提としない運用の検証に用いられた。
通信方式の普及後は、楽曲の追加だけでなく、背景映像や採点用データも配信対象となった。回線容量の増大に伴い、生楽器を収録した伴奏音源や高精細映像を扱う機種が導入され、端末は専用リモコンからタッチパネル式検索機へ移行した。21世紀にはインターネット接続を利用し、歌唱履歴や利用者設定を複数店舗で共有するサービスも組み込まれた。
楽曲制作と権利処理
カラオケ用伴奏は、原盤を単純に複製したものとは限らない。多くの楽曲では、原曲の構成を参照しながら別個に演奏または電子制作された音源が使用される。このため、楽曲を構成する詞と曲に関する著作権に加え、使用する音源の制作主体に応じて録音物に関する権利処理が生じる。
店舗営業では、管理事業者が楽曲の利用状況に応じて使用料を処理する。通信カラオケでは端末が演奏履歴を記録できるため、利用回数を集計した分配が可能となった。家庭用機器やオンライン配信では、装置の販売、期間契約または楽曲単位の購入という供給形態が採用されている。
歌詞の画面表示も著作物の利用に該当するため、伴奏の再生とは別の管理対象となる。映像についても、その制作物自体に独立した権利が成立する。この権利構造により、同じ楽曲であっても、業務用端末と家庭向けサービスでは収録状況が一致しない場合がある。
国際的展開
カラオケは1980年代以降、日本国外へ広がった。東アジアでは個室型店舗が主要な形態となり、地域ごとの飲食習慣や営業時間に合わせて営業方式が調整された。英語圏では飲食店内に舞台と共用機器を設け、司会者が歌唱者の順番を管理する形式が広く採用された。
フィリピンでは、ロベルト・デル・ロサリオが伴奏再生装置「シング・アロング・システム」を開発し、1980年代に関連特許を取得した。この装置はマイク、増幅器および伴奏再生部を一体化し、家庭や小規模店舗での利用に対応した。各地域への普及後も日本語の「karaoke」が一般名称として定着し、発音だけがそれぞれの言語体系に応じて変化した。