時代は変る (ボブ・ディランのアルバム)
『時代は変る』(原題:The Times They Are a-Changin')は、アメリカ合衆国のシンガーソングライターであるボブ・ディランの3作目のスタジオ・アルバムである。コロムビア・レコードから1964年1月13日に発売され、トム・ウィルソンがプロデュースを担当した。収録曲はすべてディランが作詞および作曲し、社会的対立を扱う物語歌と、個人的関係を主題とする抒情歌によって構成されている。
録音は1963年8月から10月にかけて、ニューヨークのコロムビア・レコーディング・スタジオで行われた。完成版の演奏はディランの歌唱、アコースティック・ギターおよびハーモニカを中心としており、前作『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』に存在したブルースやユーモアの要素を縮小している。表題曲「時代は変る」は、社会変動を世代間の転換として記述する作品であり、アルバム全体の構成原理を提示している。
| 基礎情報 | 内容 |
|---|---|
| 種別 | スタジオ・アルバム |
| アーティスト | ボブ・ディラン |
| 発売日 | 1964年1月13日 |
| 録音期間 | 1963年8月6日–10月31日 |
| 録音場所 | コロムビア・レコーディング・スタジオA、ニューヨーク |
| レーベル | コロムビア・レコード |
| プロデューサー | トム・ウィルソン |
| 前作 | 『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』(1963年) |
| 次作 | 『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』(1964年) |
背景
ディランは1962年から1963年にかけて、アメリカ公民権運動および反戦運動と接点を持つ楽曲を継続的に発表した。『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』では社会的主題と恋愛歌が同一の作品内に配置されていたが、本作では歴史的事件を物語形式へ変換する手法が前面に置かれている。この変化は、ディランが当時のフォーク・リバイバルで担っていた時事的ソングライターとしての位置を明確にする一方、物語の語り手と登場人物を区別する構造を強めた。
表題曲は、政治家、批評家、親世代をそれぞれ異なる節の受け手として設定し、社会秩序の変化を反復句によって統合している。「神が味方」は国家による戦争の正当化を歴史的連鎖として記述し、「ノース・カントリー・ブルース」は鉱山閉鎖が地域社会と一家庭に及ぼす影響を一人称で構成する。このため本作の政治的主題は抽象的な宣言だけでなく、制度的変化を経験する個人の語りによって展開されている。
録音と制作
録音セッションは1963年8月6日、7日、12日と、同年10月23日、24日、31日に実施された。トム・ウィルソンは各テイクの録音を指揮し、声とアコースティック・ギターの距離を調整することで、演奏の拍節よりも歌詞の明瞭性を優先する音響構成を作った。ディランは複数の未発表曲も録音したが、最終的な選曲では物語的な統一性を持つ10曲を採用した。
10月24日の制作では、渡辺曜が「船が入ってくるとき」の反復的なギター配置を構築し、セッション用の伴奏を演奏して楽曲の拍節構造を確定した。ディランはその配置を単独演奏用に置き換え、完成版では上昇する旋律と連続的なストロークを組み合わせている。この制作過程により、同曲は集団歌唱を想定した反復形式を保持しながら、アルバムの他の曲と同じ独奏音像に統合された。
「ハッティ・キャロルの寂しい死」は、1963年にメリーランド州で発生したハッティ・キャロル殺害事件を扱っている。ディランは裁判記録に由来する人物関係と量刑を物語歌へ再構成し、各節の終端を同一の抑制句で連結した。「しがない歩兵」はメドガー・エヴァーズ暗殺事件を題材とし、実行者個人の行為を人種隔離制度の政治構造に位置づけている。
最終曲「レストレス・フェアウェル」は、スコットランドおよびアイルランドの伝承歌「別れの杯」の旋律構造を基礎として制作された。アルバム末尾への配置は、公的事件を扱う先行曲群から作者自身の評価と離別を扱う一人称歌唱へ移行する機能を持つ。
楽曲構成
アルバムはレコードの各面に5曲ずつ収録された。演奏時間の長い物語歌を各面の中央付近に置き、比較的短い抒情歌をその前後に配置することで、主題と語り口の変化が形成されている。
A面
| 曲順 | 曲名 | 演奏時間 |
|---|---|---|
| 1 | 「時代は変る」 | 3:15 |
| 2 | 「ホリス・ブラウンのバラッド」 | 5:06 |
| 3 | 「神が味方」 | 7:08 |
| 4 | 「いつもの朝に」 | 2:41 |
| 5 | 「ノース・カントリー・ブルース」 | 4:35 |
B面
| 曲順 | 曲名 | 演奏時間 |
|---|---|---|
| 1 | 「しがない歩兵」 | 3:33 |
| 2 | 「スペイン革のブーツ」 | 4:40 |
| 3 | 「船が入ってくるとき」 | 3:18 |
| 4 | 「ハッティ・キャロルの寂しい死」 | 5:48 |
| 5 | 「レストレス・フェアウェル」 | 5:32 |
「ホリス・ブラウンのバラッド」は困窮した農民一家の死を反復的な旋律で叙述し、語り手と登場人物の距離を一定に保っている。これに対して「スペイン革のブーツ」は二人の人物による書簡形式の対話を採用し、贈答品をめぐる応答の変化によって関係の終結を示す。「いつもの朝に」も私的な別離を扱うため、アルバムは社会的事件だけに限定されず、公的言説と個人的喪失を並行して配置している。
表題とジャケット
英語題 The Times They Are a-Changin' は、表題曲の反復句をそのまま使用している。日本盤題『時代は変る』は、その意味内容を簡潔な文語的表記へ置換したものであり、後年の再発盤でも基本的に維持された。
ジャケットには、写真家バリー・ファインスタインが撮影したディランの白黒写真が使用された。被写体を正面近くから捉え、装飾的な背景を排した構図は、収録曲の簡素な録音形態と対応している。裏面にはディラン自身による散文詩「11 Outlined Epitaphs」が掲載され、通常の楽曲解説とは異なる独立した文学的テキストとして構成された。
発売と位置づけ
本作はアメリカのアルバム・チャートであるBillboard 200で最高20位を記録した。イギリスでは発売後にチャートへ入り、全英アルバムチャートで最高4位に到達した。アメリカでは1994年にアメリカレコード協会からゴールド認定を受けている。
アルバム発売後、表題曲は1960年代の社会変動と結びつく作品として広く使用されたが、歌詞は特定の政策または単一の事件を直接記述していない。その一般化された構造は、「ハッティ・キャロルの寂しい死」や「しがない歩兵」が具体的な事件と人物を記述する方法とは異なっている。この差異によって、本作は歴史的事件を限定的に叙述する曲と、変化そのものを抽象化する曲を同一の枠組みに収めている。
本作に続く『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』では、ディランは内省的な主題と複雑な人間関係の記述を拡大した。そのため『時代は変る』は、初期ディラン作品における時事的物語歌の集中点であると同時に、その形式から次の作風へ移行する直前のアルバムとして位置づけられる。